言語聴覚士の読書ノート

言語、脳、失語症を考える

失語症改善にはどの課題を重点化したらよいのか

今日は日本の論文をご紹介します。2014年に高次脳機能研究に掲載された東川・波多野によるものです。


失語症の言語治療効果に関する因子分析研究

https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/34/3/34_291/_pdf


この研究では、失語症が回復するメカニズムを調べるために、日本で最もよく使われている標準失語症検査の結果を、治療前ー治療後で比較することによって、その因子を抽出しています。


その結果、第1改善因子は、「非変換的な言語産生と複雑な情報処理の因子」というもので、失語症の中核的改善因子と解釈されています。

一方、第2以下の改善因子は、それとは対照的に、聞く、読む、書くといった言語の様態や課題の種類の個別性の高い因子であったとのことでした。


ここでいう「非変換的」とは、例えば音読の時に視覚的に入力された文字言語が、音声言語に変換されるが、このような視覚から音声へといった言語様態の変換を含まない、自発的な表出という意味です。


このことから筆者は、失語症のリハビリでは、絵を見て名前を言う呼称や、絵を見てその名前を書く書称などを中心に行うべきであるとしています。



これを読んで、確かに呼称や書称などの課題に含まれる、意味から言語への変換は言語機能の本質だと思いました。

実際の自分の経験でも、呼称が一番改善幅が大きいように感じるので、納得感がありました。